2013年8月6日火曜日

「石油の未来:過去の燃料」:中国の政策によって石油の需要は大きく変わる

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●中国の政策によって石油の需要は大きく変わる(写真は北京市内のラッシュアワー)〔AFPBB News〕


JB   Press  2013.08.06(火) The Economist
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38388

石油の未来:過去の燃料
(英エコノミスト誌 2013年8月3日号)

 石油に対する世界の強い需要はピークに近づいているのかもしれない。
 それは生産者にとっては悪いニュースだが、その他のすべての人にとっては素晴らしいニュースだ。
 石油の時代が幕を開けたのは、かなり最近のことだ。
 石油は、6000年前の中東で既に小舟の防水加工に使われていたが、本格的な採掘は、米国のペンシルベニア州で石油が掘り当てられた1859年になってようやく始められた。

 最初の原油は1バレル18ドル(現在なら約450ドルに相当)で売られた。
 それは灯油の原料として使われた。灯油は、乱獲により鯨の脂肪が不足するようになった後、人工照明の主な燃料になっていた。

 原油の精製過程で抽出されるそのほかの液体は、ランプに使うにはあまりにも不安定で煙が多すぎるので、燃やされたり捨てられたりした。
 しかし、不要産物だったそのガソリンやディーゼル油も、数年後に内燃機関が開発されたおかげで、無駄に捨てられることはなくなった。

 それ以来、石油に対する需要は、車や飛行機や船による移動が増え続けるのに伴い、1970年代と1980年代に2回の急激な増減があったものの、着実に増加してきた。
 石油の5分の3は、最終的に乗り物の燃料タンクに収まる。
 中国とインドの数十億人が豊かになり、自家用車のハンドルを握りたがるようになった今、大手石油会社と国際エネルギー機関(IEA)、米国エネルギー情報局(EIA)はこぞって、需要は増加し続けると予測する。

 石油大手の英BPは、2030年には需要が現在の日量8900万バレルから日量1億400万バレルに増えると推計している。

■需要の減少要因

 本誌(英エコノミスト)は、そうした予測は誤りで、石油需要はピークに近いと考えている。
 これは、数年前に広く議論された「ピークオイル」説とは異なる。
 あの時は、複数の理論家が、供給が頭打ちになり、その後減少するとする予測を立てたが、彼らはそれ以来奇妙なことに口をつぐんでいる。

 本誌は、供給ではなく需要が低下するだろうと考えている。
 先進国では、既に石油の需要はピークを過ぎた。
 2005年を境に減少に転じたのだ
 今後、北京とデリーでドライバーが増えることを考慮に入れても、2つの技術革新が、石油に対する世界の強い需要を鈍らせるはずだ。

①.第1の革新は、つい先日亡くなったテキサス出身の米国人、ジョージ・ミッチェル氏がもたらした。
 ミッチェル氏は、シェール層から「非在来型」天然ガスを大量供給する方法として「水圧破砕(フラッキング)」法を推し進めた。
 シェール革命に加えて、膨大な在来型のガス田が新たに発見されたことにより、
 近年、世界の埋蔵量は50年分から200年分に増加した。

 ミッチェル氏のおかげで既に地下からシェールガスが噴き出している米国では、液化天然ガスや圧縮天然ガスが、トラックやバス、地域の配送車両の燃料として使われている。
 天然ガスは、船や発電所、石油化学工場、家庭用・産業用暖房システムでも、石油に取って代わる可能性がある。
 そうなれば、2020年には石油の需要が日量数百万バレル削減されるかもしれない。

②.もう1つの大きな変化が、自動車技術の分野で生じている。
 エンジンと車の設計の急速な進歩が、石油の優位を脅かしている。
 とりわけ、内燃機関そのものの効率化が大きい。
 ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの燃費は向上する一方だ。
 車体に使用される素材は、ますます軽量で丈夫になっていく。

 天然ガス車や水素燃料電池車だけでなく、電気自動車とハイブリッドカーの人気が高まっていることも、石油の需要に影響を与えるだろう。

 米シティバンクのアナリストらは、乗用車とトラックの燃料効率が年平均2.5%改善されていけば、石油の需要は十分抑えられると計算している。
 その予測では、今後数年のうちに日量9200万バレル弱というピークが訪れることになる。
 技術系コンサルティング企業の英リカルドも、同様の結論に達している。

 当然のことながら、石油の「スーパーメジャー」やIEAの意見はこれとは異なる。
 両者は、新興国のほとんどでは、車の所有台数や1人当たりの走行距離で米国と肩を並べるまで、まだ長い成長期があると指摘する。

 しかし、豊かな国々の過去から、急成長を遂げているアジアの将来を推測するのは、愚かなことだ。
 車両の燃料効率規格を厳しくして燃料需要を減らすという欧米の環境政策は、新興国でも採用されつつある。

 中国は最近、独自の燃費規制を導入した。
 中国政府が輸入石油への依存度を減らすことを決意し、国内の運輸システムをハイブリッドに「跳躍」的に転換する政策を強制的に推進したなら、石油の需要はさらなる下落圧力にさらされることになる。

■ピークを過ぎれば

 これと反対に、石油消費を増加させ得る要因は2つある。

①.第1に、世界の産油量の11%を支配し、最大の余剰生産能力を持つサウジアラビアが、産油量を増やして価格を下げ、そうすることで需要を高めようとするかもしれない。
 しかし一方で、サウジアラビアが価格を上げようと産油量を減らし、それによりさらに需要を低下させる可能性もある。

②.第2に、需要の低下が石油価格を押し下げたなら、ドライバーはガソリンを大量に食う車に再び乗り始めるかもしれない。
 石油が安くなった1990年代がそうだった。
 しかし、排ガス規制が強化されている今後は、そういうことは起こりにくいはずだ。

 石油に対する需要が安定するだけで、重要な結果が生じる。
 環境が少し良くなるはずだ。
 天然ガス車は、同等のエンジンパワーのガソリン車に比べて、二酸化炭素の排出量が少ない。

 企業の序列も変化する。
 現在、米エクソンモービルは米アップルと並んで世界最大の上場企業に挙げられている。
 しかし、エクソンモービルなどの石油スーパーメジャーは、見た目よりも脆弱だ。

 調査会社の米バーンスタインの計算では、北極などの技術的に(あるいは、政治的に)条件の厳しい環境から新たに石油を採掘するには、1バレル当たり100ドルのコストがかかる。
 それでも、石油大手はガス大手としてそれなりの未来を開くことができるが、これまでのような大きな収益は見込めない。

■最大の影響が出るのは地政学か

 需要の低下がもたらす最大の影響は、地政学的なものかもしれない。

①.石油は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領のクレプトクラシー(泥棒政治)を支えている
 主要な資金源がやせ細ってしまったら、ロシア政府はその意思を国民に強制するのが難しくなるだろう。

②.サウジアラビアの王族は、高い石油価格を頼りに国家予算の帳尻を合わせ、潤沢な社会保障プログラムを提供し、他国では街頭デモを繰り広げた活動的な若い世代を懐柔してきた。
 サウジアラビアには莫大な財源の蓄えがあるため、しばらくは不足分を補うことができる。
 しかし、石油による収益が王国の国庫に流れ込む勢いが弱まれば、対立勢力を買収するのが難しくなり、社会的動乱の可能性が高まる。

③.そして、米国がシェールガスによるエネルギー自給体制へと向かうとしたら、
 過去に支援してきたアラブの同盟国に対して将来も同じように寛大な態度を示すとは思えない。
 石油は、その拡大にあたって多くの紛争に油を注いできた。
 需要が縮小していく間も、変わらず争いに油を注ぎ続けるかもしれない。
 それでも、ほとんどの人はその変化を歓迎するはずだ。

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英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。





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