2013年8月2日金曜日

減速する中国:果てしない需要に賭けた中南米諸国は今・・・

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●中南米諸国は中国向けに建設資材をはじめ、様々な原材料、農産物を供給している〔AFPBB News〕


JB Press 2013.08.02(金)  Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38374

中国の台頭に便乗する恩恵とリスク
減速する中国、果てしない需要に賭けた中南米諸国は今・・・
(2013年8月1日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 世界中で中南米諸国ほど中国の台頭から大きな恩恵を受けてきた地域はほとんどない。
 1990年時点では、中国は中南米の輸出先リストで17位という低い位置を占めていた。
 2011年には、ブラジル、チリ、ペルーにとって最大の輸出市場になっており、アルゼンチン、キューバ、ウルグアイ、コロンビア、ベネズエラにとって第2位の輸出先になっていた。

 その間、中国との年間貿易額は、ごく平凡な80億ドルから掛け替えのない規模の2300億ドルまで増加した。
 中国指導部は、2017年には年間貿易額が4000億ドルに達すると予想している。

■急拡大した貿易、発音しやすければ「Chatinamerica」と呼ばれた?

 中国が巨大な都市を建設し、高速道路網や鉄道網を整備し、どんどん肉食となる国民を養うなか、中南米は、中国が拡大を続けるために必要とするものの多くを持っている。
 チリの銅、ペルーの亜鉛、ブラジルの鉄鉱石は、大量に中国に輸送されている。

 この地域は食料の中東であり、世界の農作物輸出の40%を占めている。
 中南米は、水資源に恵まれない中国に、目もくらむような量の牛肉、鶏肉、大豆、トウモロコシ、コーヒー、動物用飼料を供給している。

 「Chatinamerica(チャティンアメリカ、中国と中南米諸国)」が「Chindia(チンディア、中国とインド)」や「Chindonesia(チンドネシア、中国とインドとインドネシア)」と同じくらい簡単に発音できたなら、誰かがとっくの昔にその用語を作り出していただろう。

 経済関係が発展するそのスピードは、世界の他の地域にも同じように当てはまる
 2つの重要な問題を提起している。

①.第1に、中国の成長と投資が鈍化した時は
 ――このプロセスは既に始まっている――、どうなるのだろうか? 
②.第2に、中南米はどのようにすれば、コモディティー(商品)依存という過去の時代の単なる再現以上の経済関係を築けるのだろうか?

■中南米にも「勝者と敗者」

 中国が減速した時に何が起きるかを知るためには、我々はまず、1990年代に中国が急成長し始めた後に様々な国がどうなったかを見るべきだ。
 ベネズエラの学者で外交官のアルフレド・トロ・ハーディ氏がその著書『The World Turned Upside Down(逆さまになった世界)』で明らかにしているように、勝者のみならず敗者もいた。

 大まかに言えば、
●.敗者はメキシコと、加工組立用の低コストの「マキラドーラ」工場を持つ中米の「メキシコ型経済」だった。
 トウモロコシや大豆を含む原料の純輸入国であるメキシコにとって、中国の台頭に伴ったコモディティー価格の上昇は、もっぱらマイナスの影響を与えた。

 より重要なことに、中国の製造業が力をつけるにつれ、メキシコの工場は競争力を失った。
 2001年から2006年にかけて、米国のパソコン輸入に占めるメキシコのシェアは7%まで半減。同じ時期に中国のシェアは3倍以上拡大し、45%に達した。

●.一方、勝者はブラジルと南米の「ブラジル型経済」だった。
 中国がペルーやチリのような国々からコモディティーの輸入を大幅に増やしただけでなく、コモディティースーパーサイクルも原料価格を過去最高水準に押し上げた。
 ケビン・ギャラガー、ロベルト・ポルゼカンスキー両氏は、その共著『The Dragon in the Room(部屋の中の龍)』の中で、最近の中南米の成長の4分の3はコモディティー輸出によるものと考えられると推定している。
 中国と密接な貿易上の繋がりを持つ国々の成長率は、平均で約5%に達した。

 だが、今は終わりつつある、
 思いがけない幸運をもたらした時期でさえ、懸念はあった。
 中国からの安い輸入品は、高度な産業基盤を持つブラジルのような国々においてすら、中南米の製造業者を弱体化させた。
 コモディティー輸出国の通貨は上昇し――「オランダ病」の典型的な例――、そうした国々の製品の競争力をさらに弱めた。

 トロ・ハーディ氏のように、コモディティーへの過度の依存は一次産品の輸出経済へと「時間をさかのぼる」ことを意味しているかもしれないと心配する向きもある。
  ブラジルのようなハイテク製品の生産国にとって、これは新植民地主義のような色彩があった、と同氏は話す。

■オーストラリアやモンゴルなどにも共通する懸念

 こうした懸念は、特に中南米で大きく響き渡るが、オーストラリアからモンゴルに至るまで、中国のコモディティーという列車に便乗してきた他の国々にも当てはまる。
 多くの国は、今は経済が減速している中国からの果てしない需要にすべてを賭けてきた

 中国が2ケタ成長から今年予想される7.5%まで減速するなかで、一部のコモディティー輸出国の経済はつまずいた。

 ブラジルが好例だ
 中国への輸出が減速し、コモディティー価格が下落していることもあって
――銅、鉄鉱石、石炭は2011年の最高値から30~50%下落している――、
 2011年と2012年には平均成長率が1.8%にとどまり、2010年の7.5%という力強い成長から大きく落ち込んだ。

 そのプロセスはまだ続くかもしれない。
 中国経済は、予想より急激に減速するかもしれないし、投資主導型から消費主導型の成長へと予想より早くリバランスするかもしれない。
 英エコノミスト誌は、ことによると時期尚早かもしれないが、
 新興国における構造的な「大減速」を既に宣言している。

 野村は「中国がくしゃみをすれば」と題するリポートの中で、いくつかの国について、
 8兆ドル余りの規模がある中国経済の2014年の成長率が同社の基本見通しである
 「6.9%」を1ポイント下回った場合の影響を試算している。
 それによると、中国の成長率が1ポイント下落した場合、中南米の成長率がさらに0.5ポイント下振れするという。

 オーストラリア(0.7%下振れ)や貿易依存度の高いシンガポール(同1.3%)のようないくつかの国では、結果はもっと悪くなるだろう。

■中国の減速は悪いことばかりではない?

 それは悪いことばかりではない。
 メキシコは、中国経済の性質が変化していることから恩恵を受けていたかもしれない。
 何しろ中国での賃金上昇が、マキラドーラ制度に新たな息吹を吹き込んでいる。
 メキシコは、コモディティー価格の下落にも悩まされなかった。

 ブラジルのような国においてさえ、中国減速の影響は必ずしもすべてマイナスというわけではない。
 中国は都市化し続けると見られ、それが金属価格に下限を設定するだろう。
 ハードコモディティーに対する中国の需要が減速しても、食肉や穀物に対する中国の需要が増加するはずだ。

 中南米にとって、そして中国が必要とするものを供給する他の国々にとってカギとなるのは、たとえそれが原料をブランド化したり加工したりすることに過ぎないとしても、付加価値を最大化する貿易関係を築くことだ。

 カナダやオーストラリア、そしてもっと身近なところでチリは、一流のコモディティー輸出国であることが必ずしも二流の経済を持つことを意味しないことを示している。

By David Pilling
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減速する成長、そして増強される軍備


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