2013年6月19日水曜日

中国人民元:格安時代の終焉

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●エコノミストの間では、人民元は今や過大評価されているのではないかとの声も上がる


JB Press 2013.06.19(水)  The Economist
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38037
(英エコノミスト誌 2013年6月15日号)

中国人民元:格安時代の終焉

 中国の通貨は10年にわたる安値批判に耐えた後、今や落ち着かないほど強くなったように見える。

 今から10年前、人民元は世界経済の悩みの種としてデビューした。
 2003年6月、ジョン・スノー米財務長官(当時)は公の場で、人民元を1ドル=8.28元で固定する政策を緩和するよう中国に促した。

 翌月、4人の上院議員がスノー長官に、「為替操作」について中国を調査するよう求める怒りの書簡を送った。

 チャールズ・シューマー上院議員(ニューヨーク州選出、民主党)は、中国が故意に自国通貨を過小評価していると主張。
 「その結果、中国が他国に売るすべての商品が、市場に出回っているモノの中で最安値になっている」
と同議員は述べた。

 それから10年経った今、シューマー議員らはまだ人民元を叩いている。
 6月初旬、8人の上院議員が為替操作国に関税を課す法案を再提出した。

■対円では約半年で20%以上急騰

 しかし、議員による人民元叩きを除くと、多くの事情が変わった。
 人民元は現在、中央銀行が毎朝設定する基準値に対して上下1%の変動が認められており、5月27日の終値は1ドル=6.12元となり、2003年6月と比べて35%高くなっていた。

 対ドルでは、今年3月以降の上昇率は昨年1年間の上昇率を上回っている。
 日本円に対する上昇はもっと急激だ。
 市場が日本の劇的な金融緩和を予想し始めた昨年11月以降、
 人民元は弱くなる円に対して20%以上高騰した。

 世界市場における中国の競争力は、人民元の価格だけでなく、中国国内の物価や人件費にも左右される。
 国際決済銀行(BIS)は世界61カ国について、各国の物価上昇率の違いを考慮した「実質」為替レートを算出している。

 2010年以降、貿易額で加重した中国の実質為替レートは、唯一の例外であるベネズエラを除き、すべての国の通貨より速く上昇した。

 中国では、人件費も主要貿易相手国より急速に高騰している。
 本誌(英エコノミスト誌)は、米国、ユーロ圏、日本との貿易額で加重し、4つの経済圏の単位労働コストを加味した「実質」為替レートを算出した。

 この指標では、中国の実質為替レートは、10年前にスノー氏とシューマー氏が人民元叩きを始めてから50%近く上昇している。

 10年前に人民元が世界で一番安い通貨だったとしても、今ではその安さはほぼ消滅した。
 ロンバード・ストリート・リサーチのダイアナ・チョイレバ氏などの一部エコノミストは、人民元は今や過大評価されているのではないかとまで考えている。

 この長期にわたる人民元の実質為替レートの上昇は、中国の急速な経済成長や厳格な労働法、生産年齢人口の減少など、根深い歴史的作用を反映している。
 だが、最近の名目為替レートの急騰は、不可解であり、厄介だ。

 為替レートの上昇が、期待外れの経済成長、物価上昇率の低下(今年は年初から5月までで、たったの2.1%)、輸出の低迷(同じく年初から5月までの伸び率がわずか1%)と同時に起きているからだ。

■中国当局が元高を容認している理由

 今回の急激な人民元高の原因は何なのか、そしてなぜ中国の政策立案者は、元高を容認しているのか? 
 中国の投資銀行、中国国際金融(CICC)の彭文生氏は、今年の人民元の上昇は、中国の金利が他国より一貫して高いことと、通貨切り下げの不安が消えたことを反映していると主張する。

 上海の指標金利は長年、ロンドンのそれよりも3~5%高かった。 
 昨年、中国経済が躓き、政権が不安定だった時には、このような高金利の魅力は、人民元が値下がりするのではないかという懸念により相殺された。
 今年に入ると、元安の不安が薄れ、短期資本が再び中国に流れ込んだ。
 その大半は、輸出収入を偽った資金だ。

 これで資本家の動機は説明できるが、共産党はどうか? 
 人民元が日々の変動幅の範囲内で上昇する中、中央銀行は概ね元高を受け入れ、毎朝の基準値を同程度引き上げている。

 人民元上昇に対し中国政府が示している寛大さは、より大きな改革への野望の表れかもしれないと、コンサルティング会社キャピタル・エコノミクスのマーク・ウィリアムズ氏は主張している。

 中国の李克強首相は先月、資本規制緩和の実施計画を年内に発表すると述べた。
 人民元が市場価値を大きく下回っていた場合、資本規制を緩めると、市場を不安定にさせる外貨流入を招く恐れがある。その論理から、中国政府は強い人民元が規制緩和に必要な前提条件になると判断したのかもしれない。

■完全に兌換性のある国際通貨になるにはあと10年?

 もしそうであれば、ここ数カ月の人民元相場の振れは、これらの全体構想を行き詰まらせたかもしれない。
 この数週間、為替の規制当局は、輸出収入を装って流入するホットマネー(短期資金)を取り締まってきた。
 そして元高は安定した。

 中国による資本規制の撤廃が、段階的で慎重を期す作業になることは最初から分かっていた。
 人民元が重要な国際論争に発展してから10年が経過した。
 完全に兌換性のある国際通貨に成長するまでには、さらに10年の歳月を必要とするかもしれない。

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英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。


 これに対して中国側はどう考えているのか。

レコードチャイナ 配信日時:2013年6月19日 18時15分
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=73408&type=0

人民元の国際化、円に迫る水準へ―中国メディア


●17日、中央銀行(中国人民銀行)金融政策委員会委員の陳雨露氏は「人民元国際化報告書2013」について、「人民元国際化指数は昨年に前年比49%増となり、人民元国際化の進展が高度成長期に入った」と語った。資料写真。

 2013年6月17日、新京報によると、中国人民大学学長、中央銀行(中国人民銀行)金融政策委員会委員の陳雨露(チェン・ユールー)氏が率いる専門家チームは16日、「人民元国際化報告書2013」を発表した。
 陳氏は同報告書について、
 「人民元国際化指数は昨年に前年比49%増となり、人民元国際化の進展が高度成長期に入った。
 このまま力強く推進され、適切な措置が講じられれば、人民元の国際化は円やポンドに急速に迫ることができる」
と語った。

◆BRICs、ラテンアメリカ、アフリカ連合が突破口に

 陳氏は、
 「昨年第4四半期に、人民元国際化指数は前年比49%増となった。
 しかし人民元国際化指数はわずか0.87であり、これは人民元国際化の進展が高度成長期にあるが、世界における使用の面ではまだ長い道のりを歩まなければならないことを意味する」
と指摘。
 「中国はASEAN+3、上海協力機構、BRICs、ラテンアメリカ、アフリカ連合など多くの経済体を突破口とし、二国間貿易もしくは地域貿易などの手段により、国際貿易における人民元決済の機能を強化し続け、人民元国際化指数の記録を更新することができる」
と述べた。

 陳氏はさらに、
 「ラテンアメリカ、アフリカ連合、日韓などとの貿易で人民元決済を増やした場合、人民元の国際化指数は円やポンドに迫り、世界通貨クラブの新たな新興経済体のメンバーになる可能性がある。
 力強く推進され、適切な措置が講じられれば、人民元国際化の程度は円やポンドに急速に迫ると信じている」
と説明した。

◆二国間貿易の人民元による決済

 陳氏はまた、
 「人民元国際使用水準と国際化進展には、
▽.企業の貿易における人民元決済の意欲・能力不足
▽.金融機関の国際化が貿易活動に比べ遅れを取っている
▽.外国為替市場における人民元と外国通貨の直接両替の規模が小さい
▽.人民元の世界使用の利便性が低い
といった障壁が、依然として存在している」と指摘した。

 そのため同報告書は、
 「短期的には二国間貿易の人民元による決済を積極的に推進し、直接投資の拡大、自由貿易区の設置、その他の提携メカニズムにより、人民元を貿易決済通貨とすることを促すべきだ。
 同時に国内金融機関の、貿易関連の人民元建て貸付業務などの発展を力強く促すべきだ」
と提案した。

(提供/人民網日本語版・翻訳/YF・編集/武藤)





減速する成長、そして増強される軍備


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