2013年6月17日月曜日

中国が欧州に与える地政学の厳しい教訓:「衰退しゆく大陸は身の程を知れ!」

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JB Press Financial Times 2013.06.17(月)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38024
(2013年6月14日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

中国が欧州に与える地政学の厳しい教訓

 時として小さな偶然の一致が、新たな地政図を思い出させる有益な知らせをもたらすことがある。
 先日これが起きた。
 中国の習近平国家主席がバラク・オバマ米大統領と会談するために訪米すると同時に、中国政府が欧州連合(EU)を痛烈に批判した時のことだ。
 欧州にとっては、明らかに不安になる経験だった。

 米中首脳がパームスプリングスのサニーランド別荘で太陽の光を浴びて散歩しながら、習氏が新しいタイプの「大国」関係と呼ぶものを打ち出した時、人民日報は、欧州に対する中国政府のかなり冷淡な見方を強調した手厳しい社説を掲載した。

 今なお世界唯一の超大国である米国の指導者に対して習氏が示した用心深い敬意は、大西洋の反対側に位置する米国の同盟国に送られたメッセージからははっきりと欠如していた。

■「衰退しゆく大陸は身の程を知れ!」

 この社説は、北京語で「中国の声」とほとんど同じに聞こえる「鐘声(Zhong Sheng)」というペンネームで書かれていた。
 開戦のきっかけは、中国によるソーラーパネルダンピング疑惑を巡り、急激に高まる欧州委員会との貿易紛争だった。

 だが、その感情は、カレル・デフフト欧州委員(通商担当)に向けられた怒りの表現という範囲を超えていた。

 社説は欧州に、序列が変わった世界で欧州の力が弱っていることを思い出させた。
 「時代の変化と力関係の変化は、一部欧州諸国の人を見下すような態度を変えられなかった」
と社説は述べている。

 言い換えると、衰退する大陸は身の程を知るべきだ
ということだ。
 でなければ、
 「中国は貿易戦争を望んでいないが、保護貿易主義は反撃を招かざるを得ない」
ということだ。

 中国政府の見解では、誰がこのような対立に勝利するのかについて疑問の余地はない。
 これをはっきり意識させるために、中国は欧州ワインの輸入に対する反ダンピング調査を開始した。

■欧州諸国を分割して支配

 同じように目を見張ったのは、EUに対する分割統治的なアプローチがあからさまに認められたことだ。
 人民日報は、大半のEU加盟国はデフフト氏が提案する反ダンピング課税に反対していると指摘した。
 人民日報が付け加えていたかもしれないのは、その事実が、個々の政府に強い圧力をかける中国の戦略の成功を裏付けているということだ。

 ソーラーパネルの決定に先立って、中国は様々な脅しを展開した。
 すると、あら不思議、ドイツのアンゲラ・メルケル首相が他の指導者に先んじてデフフト氏と袂を分かつ用意があることを示した。
 こうして中国の李克強首相によるベルリン訪問は、予定通り進めることができた。

 中国政府は、自分たちが内政干渉だと見なすことに対して同じように強硬な態度を取っている。
 英国のデビッド・キャメロン首相は昨年、チベットの精神的指導者ダライ・ラマとロンドンで会談した。
 それ以来、キャメロン首相は中国指導部から締め出しを食らっている。

 一方、ダライ・ラマとの将来の接触について個人的な「確約」を与えたと言われているドイツとフランスの首脳は、北京で自由に商売ができる。

 欧州諸国が各国間で合意できずにいることを考えると、欧州諸国が米国と共同戦線を張るかもしれないと想像するのは、無理があるだろう。

 提案されている環大西洋貿易投資パートナーシップ協定(TTIP)は欧州に、地政学的に無意味な存在になることを避けるチャンスを与えている。
 だが、スタートを告げるピストルが正式に鳴る前でさえ、この協定の見通しには暗雲が垂れ込めている。
 欧州諸国は、協定が成立しなかった場合、自分たちの方が失うものがはるかに多いことを理解していないように見える。

■欧米貿易協定への反対論

 筆者は、先日ベニスで行われた米伊協議会(CONSIUSA)の年次総会で、TTIPに対する多くの反対意見を耳にした。
 ほとんどはEU側から聞こえてきたものだ。
 筆者はここに、あれやこれやの産業部門の保護を求める要求にとどまらず、理屈抜きの敵対心を感じた。
 誇り高き欧州諸国がなぜ偉そうな米国の望みに自分たちの国家的、文化的好みを合わせる必要があるのか、というわけだ。

 医薬品や食品衛生、金融サービスほど大きく異なる分野で、共通の規制基準に同意したり、規則や規範の相互承認を受け入れたりする試みについて、欧州諸国は「あまりにも難しすぎる」と言う。
 争点になる国益や特別利益団体が多すぎるのだ。
 しかもこれは、フランスの文化的例外主義や、米国国家安全保障局(NSA)の監視行為に関して最近明らかになった事実によってもたらされたデータ保護に関する議論に取り掛かる前の話だ。

 遺伝子組み換え食品や政府の調達慣行、綿花価格その他に関するこれらの議論に欠けているのは、もっと大きな目標の姿だ。
 TTIPの協議を環太平洋経済連携協定(TPP)、そして噂される日欧自由貿易協定と結び付ければ、それは、世界の先進民主主義国がまとまるか、まとまらないかという話になる。

 計画されている継ぎはぎの協議を見る1つの方法は、それらを中国を締め出す構想と見なすことだ。
 その場合、その目的は明らかに、世界経済の規範や基準を設定し続けることだ。

 だが、もう1つの見方は、西側諸国が自由で開かれた包括的な制度を維持したいと思うのなら、これらの国々が少なくとも各国間で合意しなければならないということだ。
 多国間協定の方が好ましかっただろうが、頓挫した多角的通商交渉(ドーハ・ラウンド)ではっきりしたように、それは手の届かないところにある。

■団結するか、存在感を失うか

 だからと言って、欧州がただ米国の要求に従うべきだと言っているのではない。
 欧米の協定が成立するとすれば、米国政府が痛みを伴う譲歩をしなければならない分野はたくさんある。
 また、その他分野で大きな進展があるのなら、双方が一部の最も微妙な問題について「意見が合わないことで合意する」ことができない理由もない。

 欧州は失うものが一番大きい。
 米国は、経済的、軍事的強さを持ち、自給自足の超大国として独力でやっていく天然資源を持っている。
 欧州は、団結するか、さもなくば存在感を失うかという選択を迫られている。
 欧州は、米国に憤慨する理由を持つよりも、自己主張の強い中国から脅かされることの方が多い。

 欧州の人々は、政策立案者たちが地政学の世界の厳しい現実を認め、塩素処理された鶏肉に関する戦いを大局的に見ることを願うしかない。

By Philip Stephens
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 日本という東方のちっぽけな国にしてやられ、このままでは沈没してしまうしかないという危機感で大同団結してできたのが「EU」。
 いまそのEUは日本に代わった新たな挑戦者に翻弄されている。
 日本人は罵詈雑言を使うのを好まない。
 しかし、中国は「言葉が汚い」。
 日本は中国のこの「汚い言葉爆弾」に耐えている。
 日本は「努力と忍耐」の国であることを思い出す。 
 さて、EUはどうだろう。



減速する成長、そして増強される軍備


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