2013年6月14日金曜日

米中首脳会談:ただ長いだけが取り柄の会談だったのか?「オバマの宿題?」

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●米カリフォルニア州で行われた米中首脳会談〔AFPBB News〕


JB Press 2013.06.14(金)  宮家 邦彦:
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38006

オバマと習近平はどこまで親しくなったのか
米中首脳会談~中国株式会社の研究(219)

 カリフォルニアでのあのカラ騒ぎは一体何だったのか。
 首脳会談直後の記者会見記録などをじっくり読んだが、前宣伝のわりに中身はなかったようだ。
 予想されたこととはいえ、進展らしい進展は北朝鮮の「非核化」に関する合意確認ぐらい。
 これだけで今後の米中関係の方向性を占うことは難しいだろう。

 今回、米側の最大の目的はバラク・オバマ大統領と習近平総書記との個人的関係構築だったという。
 それではあの2日間で両首脳はどこまで親しくなったのだろうか。
 今回は、報道された資料・記録と筆者の独断と偏見により、米中首脳同士の「相性」について考えてみたい。(文中敬称略)

■手放しで喜ぶ中国

 米中首脳会談に関する報道が多かったわりに、情報源は限られていた。
 包括的なものとしては、6月8日に杨洁篪国務委員が、9日にトーマス・ドニロン安全保障担当大統領補佐官がそれぞれ開いた記者会見ぐらい。

 それすら、具体的内容に踏み込んだ部分はごく一部で、首脳会談の全貌は今も明らかにされていない。

会見内容:
 中国側(中文)はこちら。
http://world.people.com.cn/n/2013/0610/c364357-21808049.html

米側(英文)はこちら
http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2013/06/09/press-briefing-national-security-advisor-tom-donilon

 6月8日の記者会見で杨洁篪は、今回の中米首脳会談が「歴史的」なものであり、両国首脳は中米の
 「新型大国関係を共同で構築していくことに同意した(两国元首同意,共同努力构建中美新型大国关系。)」
と手放しで評価していた。

 さらに、今回の首脳会談は、
 「交流の深さ、広さもこれまでにないもので、双方が中米関係を高く重視していることを示し、新たな時期の中米関係の発展の需要に適し、中米関係の戦略的意義とグローバルな影響を具現化した(交流的深度和广度,都是前所未有的,反映了双方对中美关系的高度重视,适应了新时期中美关系发展的需要,体现了中美关系的战略意义和全球影响。)」
とも述べている。

 こうした評価の是非はともかく、少なくとも今回、オバマが「新しいタイプの大国間の関係」なる概念に言及したことは事実だ。
 「習近平国家主席は、中国が提唱した『新型大国関係』を米国の大統領に認めさせるなど、大きな外交的成果を収めた」
こんな調子で中国側は今後も国内宣伝を続けるに違いない。

■具体的成果に言及しない米国

 これに比べれば、6月末で退任するドニロン補佐官の記者会見での発言はより慎重だった。
 ここでは日本の新聞が報じなかった同補佐官発言のうち、特に興味深いものをいくつかご紹介しよう。
 いつもの通り、カッコ内は筆者の独断と偏見に基づく「ツッコミ」である。

●今回の会談は非常にユニークで重要であった。(The quite unique and important meetings.)

 【これだけ長時間の首脳レベル会談を「ユニーク」としか形容できないということは、実質的にほとんど進展がなかった証拠だ。
もっとも、この点は会談前から多くの識者が予想していたことであり、驚きはない

●ユニークで非公式な雰囲気の中で行われた議論は非常に良かった。
(Very good discussions in an informal atmosphere, uniquely informal atmosphere.)

●議論は前向き、建設的、広範であり、事前に定めた目標を達成することに大いに成功した。(The discussions were positive and constructive, wide-ranging and quite successful in achieving the goals that we set forth for this meeting.)

 【「良い」議論、「前向き」「広範」といった形容詞も、会談で実質的進展がない場合によく使われる表現で、特に深い意味はないだろう

●今回米国は中国(新)指導部との関与を深めるという具体的な目標に向け意識的に努力した。(We've had a purposeful and deliberate effort to engage with the leadership of China.)

●特に、今回はオバマ大統領と習近平総書記との個人的関係を構築することが目的であった。(We had as a goal, a specific goal to build a personal relationship between the President and President Xi.)

 【米側の目的は首脳レベルの個人的関係構築ということだが、果たして本当に成功したのだろうか。
 どうも疑わしいというのが筆者の見立てだ】

■2人は親しくなったのか

 ドニロンが
 「首脳間の個人的関係構築という目的達成に成功した」
と明言している以上、ある程度親しくはなっただろう。
 しかし、この種の会談で少しでも個人的関係に進展があったなら、1つや2つ関連エピソードを紹介してもいい、と筆者なら思う。
 なぜか、この点につきドニロンは多くを語っていない。

 唯一紹介されたエピソードは、今回両首脳が習近平夫人を交えて歓談したこと。
 しかも、オバマ夫人は不参加だった。
 今回の画像や動画で見る限り、習近平の動きはどこかぎごちない。
 オバマが知りたかったのは中国側の本音だろう。
 が、果たして習近平に「本音」を語るほどの余裕はあっただろうか。

 そもそも、首脳レベルの長時間非公式会談は一種の「両刃の剣」だ。
 確かに、これだけ長く一緒にいれば、両首脳が仲良くなる可能性は高い。
 だが、これだけ長く一緒にいたがために、逆に「馬が合わない」ことが露見する可能性だって十分あるだろう。

 8時間以上も一緒にいて、意見は違っても両者が仲良くなれば大成功だ。
 しかし、万一、2人のケミストリーが合わなかった場合、その政治的コストは決して小さくない。

 現時点でオバマと習近平の「相性」がどの程度良いかは明らかではないが、単に
 「長く話せば、関係が良くなる」
というわけでもなさそうだ。

■中国側にとって最悪のケースは

 習近平が伝統的中国式発言スタイルから抜け出せない場合だ。
 せっかく非公式でプライベートな環境を用意したにもかかわらず、習近平が公式見解を長々と喋り出したら要注意だ。
 そんなことをすれば、オバマが望んだ当意即妙の議論を楽しむ機会が失われるからである。

 そうでなくても、一般に中国の要人は話が長い。
 筆者の経験でも、「壊れた蓄音機」のように、一度スイッチが入ると30~40分話が止まらない要人が少なくなかった。
 しかも、そういう人たちに限って、自分の話が長いことに気づかない。
 習近平がこれをオバマの前でやったら、間違いなく逆効果だろう。

 6月13日付報道によれば、2日間計8時間に及んだ首脳会談では、習近平が
 「約40分にわたり尖閣や歴史問題に関する中国の主張を一方的に述べ続けたり、
 1時間にわたりペーパーを読み上げながら同様の発言を行ったり」
したそうだ。
 いかにもありそうな話ではあるが、米側の説明だけで判断は下せない。

■サイバーという宿題

 続いて、サイバー攻撃問題に関するドニロン補佐官の発言をご紹介したい。
 同補佐官自身述べているように、今回米側が最も重視したのはサイバー問題だったからだ。
 ちなみに、
 今回の記者会見でドニロンが米側の対中要求内容につき詳細に言及したのは、サイバー問題だけ
ある。

サイバー安全保障については詳細に議論した。
 大統領はこの問題の解決が実際に米中経済関係の将来の鍵を握っていることを強調し、習近平総書記に対しこの問題を引き続き真剣に考えるよう要請した。
 (We had a detailed discussion on this. The President underscored that resolving this issue is really key to the future of U.S.-China economic relations. He asked President Xi to continue to look seriously at the problem that we've raised here.)

●もしこの問題が処理されず、米国の知的財産に対する直接盗取が続けば、この問題は米中経済関係にとって非常に困難な問題となり、2国間経済関係の潜在的可能性を阻害するだろう。
 ・・・今やこの問題は米中関係の中心的課題である。
 (If it's not addressed, if it continues to be this direct theft of United States' property, that this was going to be a very difficult problem in the economic relationship and was going to be an inhibitor to the relationship really reaching its full potential….. it is now really at the center of the relationship.)

中国の指導部が、この(サイバー)問題の米国にとっての重要性、米国がこの問題の解決を求めることの重要性を明確に理解していることは今や明らかだ。
 (It's quite obvious now that the Chinese senior leadership understand clearly the importance of this issue to the United States, the importance of the United States of seeking resolution of this issue. )

 要するにドニロンが言いたいことは、
 米国は解放軍による対米サイバー攻撃の詳細を把握している、
 今後中国側がこの問題に真剣に対応せず、目に見える変化がなければ、
 中国が望むような米中関係深化はあり得ない
ということだ。

 オバマは習近平に厳しい警告を与え、一種の宿題を課したとも言えるだろう。


●人民解放軍によるサイバー攻撃拠点とされた上海近郊のビル〔AFPBB News〕

 米側がこの問題をいかに重視しているかは、6月8日付ワシントンポスト紙記事が示している。

 同記事は、オバマ大統領が昨年10月の大統領政策指令第20号により、
 「サイバー攻撃に対し、警告なしに相手側に破壊的攻撃を行えるようなサイバー兵器」の開発
を命じたと報じている。

 両首脳がサイバーを議論したのは6月8日の午前。
 その日のワシントンポストがこの記事を掲載したことは決して偶然ではない。
 同記事を習近平に読ませるべく、前日までに誰かが情報をリークしたに違いない。
 こんな雰囲気の中でオバマと習近平が個人的な信頼関係を構築することは容易ではないだろう。

■米上院の対中警告決議案

 米側の対中懸念はサイバー問題だけではない。
 米側は西太平洋における中国の海洋進出にも懸念を深めている。
 この関連で日本では、尖閣問題につきオバマが中国側にどこまで直截的に米側の懸念を伝えたかにつき関心が集まっていた。

 6月13日付報道によれば、米政府は複数の外交ルートを通じ日本側に会談内容を伝えてきたという。
 オバマは習近平に対し、
●.「まず中国側は、日本が米国の同盟国であることを認識する必要がある」
●.「米国は、日本と日本の民主主義を完全に信頼している。日本は成熟した民主主義国だ」
などと述べたそうだ。

 同様の話は筆者も聞いていたので、報道内容はほぼ間違いないだろう。
 菅義偉官房長官が
 「尖閣問題につき米側は日本の考えを中国側に主張してくれた」
と述べ、これを歓迎したのも当然だ。
 最近の日米間の連携は案外しっかりしていると思う。

 米国の対中懸念は行政府だけではない。
 日本ではほとんど報じられていないが、中国の海洋進出に関しては米立法府にも動きがある。
 習近平訪米直後の6月10日、米上院外交委員長らが南シナ海などで威力使用を非難する、事実上の対中非難決議案を提出しているのだ。

 同決議案は、前文で東南アジア諸国連合(ASEAN)・日本と中国との海洋での様々なトラブルに言及しつつ、以下6項目について決議している。
 「名指し」こそないが、同決議案が主として南シナ海および東シナ海における中国海軍・海上警察力の行動を念頭に置いていることだけは間違いない。

(1).南シナ海および東シナ海での領有権主張や現状変更のための威圧、脅威、武力の使用を非難する
(2).無人島嶼への要員配置を控えるなど、すべての当事者に強く自制を求める
(3).米国は中国とASEAN諸国の南シナ海における行動規範作りの努力を強く支持する
(4).国際法に基づく南シナ海の領土問題解決のための外交努力を支持する
(5).同地域の国々の海洋警察能力構築のための米国の努力を慫慂(しょうよう)する
(6).西太平洋における航行の自由、平和と安定、国際法の尊重などのための米軍の作戦継続を支持する

 このように、最近米国内の対中懸念は確実に高まっている。
 本決議案は法的拘束力を持たないだろうが、仮に採択されれば、政治的にはかなりのインパクトがあるだろう。
 米中関係は杨洁篪が思うほど楽観視できる状況にはないのである。

■オバマは習近平をどう評価するか

 最後に、米中両首脳間の個人的信頼関係の行方について一言述べたい。

 今回の結果を受けて、オバマが「習近平は信頼できるか」否かについて最終「判断」を下すことはないだろう。
 オバマはビジネスライクな政治家、相手が「言ったことを実行するか否か」だけを見ているはずだ。
 オバマの関心事は、今後1カ月間に中国の対米サイバー攻撃が「どの程度減少するか」だろうと思う。

 中国による対米サイバー攻撃が激減するか、少なくともそのパターンが大きく変わるようなら、オバマは今後も習近平とさらなるビジネスを行おうとするかもしれない。
 逆に、
 対米サイバー攻撃のパターンが以前と変わらなければ
 オバマの熱意は消え、米中関係が再び「ガチンコ」に向かう恐れすらあるだろう。

 習近平がオバマからもらった「宿題」をどこまで実行するか、
 そのために人民解放軍に対しいかなる指示を出すか、
 解放軍は習近平の指示にどこまで従うか、
 それとも面従腹背を決め込むのか。
 あらゆる可能性が考えられる。
 その結果は7月にも予定される米中戦略・経済対話の中で明らかになるだろう。



中国新聞 '2013/6/14
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp201306140095.html

中国の対日姿勢非難 首脳会談時に米大統領

 オバマ米大統領が7、8両日に行われた習近平中国国家主席との米中首脳会談で、沖縄県・尖閣諸島の領有権主張を強める中国の対日姿勢を非難し
 「米国の同盟国である日本が中国から脅迫されることをわれわれは絶対に受け入れない
と述べていたことが判明した。
 複数の日米関係筋が13日明らかにした。
 オバマ氏は13日の安倍晋三首相との電話会談でも、こうした経緯を伝えたとみられる。

 尖閣情勢で表面的に中立的立場を見せる米国が中国の動向を強くけん制したやりとりが明らかになったことを受け、安倍政権は
 「日本側の立場を十分に踏まえた対応で、強固な日米関係が確認できた」(政府筋)
との見方を強めている。
 米国の中国への厳しい姿勢を追い風に、日中対立の解消につなげられるかが今後の焦点となる。

 オバマ氏の対中非難発言は、日米中3カ国ともに公表していない。
 米国が中国の対米世論を刺激しないよう配慮した可能性がある。

 関係筋によると、オバマ氏の発言は8日朝、米カリフォルニア州の会談場所で、習氏と通訳だけを伴って散歩した際に出た。

 一連の会談でオバマ氏は習氏に対し、尖閣が日本の施政権下にあるとの米側の立場を伝達。
 尖閣が米国による日本防衛義務を定めた安保条約第5条の適用対象であるとの認識を示唆し
 「中国の影響力が増す中で、東シナ海での行動には戦略的自制が必要だ。
 アジア諸国が懸念を持っている」
と強調。
 「日米関係はあなたに何を言われても揺らぎはない」
と述べた。

 習氏は
 「これまで自重してきている」
と反論し
 「今後も自重していく」
と応じた。
 安倍政権について「日本の政権は右傾化している」と批判したが、オバマ氏は
 「安倍首相は民主的な選挙で選ばれたリーダーだ。
 日本の民主主義をうたぐっていない
と指摘した。



jiji.com (2013/06/18-15:56)
http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2013061800635

習主席「若くて、力強い」=米中の進展楽観
-サイバー問題では応酬も・オバマ大統領


習近平中国国家主席(左)と握手するオバマ米大統領=7日、米カリフォルニア州ランチョミラージュ(AFP=時事)

 【ワシントン時事】オバマ米大統領は、17日に放映された公共テレビ(PBS)のインタビューで、カリフォルニア州の保養施設で7、8の両日会談した中国の習近平国家主席について
 「中国国内で地位を強固にしている。過去の指導者より若くて、力強く、自信に満ちている
と評し、中国が国際社会に対し、より責任を負うことに期待感を示した。
 また、米中関係の「将来を楽観している」とも述べた。

 オバマ大統領が約8時間に及んだ首脳会談の内容に言及したのは初めて。
 大統領は、北朝鮮の核問題で中国側から米国と共に対応することへの「関心と意思」が見られたと指摘。
 中国がこれまでになく、北朝鮮問題を真剣に受け止めているとの見方を示した。
 一方、中国を発信地とするサイバー攻撃については「厳しいやりとりをした」と説明した。
 例えとして、中国は通常の情報収集活動の域を超えて「日米首脳会談での私の発言を探ろうとした」などとも批判した。

 大統領によれば、習主席は、サイバー問題が「米中関係の土台に悪影響を及ぼし得ることを理解した」という。
 会談では人権や民主主義といった米国の価値観についても明確にした。




減速する成長、そして増強される軍備


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