2013年6月10日月曜日

「農民国家」中国の限界:格差是正は不可能、政治の不安定化へ

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JB Press 2013.06.10(月)  川島 博之
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37940

「農民国家」中国の限界
格差はもはや是正不可能、政治の不安定化は必至

 中国経済の減速が報道され始めた。
その原因としてヨーロッパ経済の不振に伴う輸出の減退や地方政府が抱える不良債権問題などが挙げられているが、よりマクロな視点から見たとき、景気減速は大きな変化の始まりと考えられる。

 筆者は、中国は「農民国家」の限界に突き当たったと考えている。
 それは短期的な調節ではない。
 乗り越えるには大きな努力が必要であり、政策のちょっとした変更程度では成長軌道に戻ることなどできない。

■中国の農民はなぜ貧しいのか

 中国の戸籍は都市戸籍と農村戸籍に分かれている。
 現在、その制度は形骸化している部分も多いが、原則として農民戸籍を持つものは都市に移住できない。
 中国の人口は13億人だが農民戸籍を持つ人が「9億人」、都市戸籍が「4億人」である
 農民戸籍が圧倒的に多い。
 そして農民は圧倒的に貧しい。
 農民は格差社会の底辺にいる。
 中国の奇跡の成長の恩恵を受けたのは13億人中の4億人でしかないのだ。

 多くの日本人は中国の農民がなぜ貧しいか、その理由を理解していない。
 また理解しようともしない。
 戸籍制度があるから貧しいなどと言っているようでは問題の本質を見失う。
 その根本原因は経済発展にある。

 開発途上国において経済が発展するということは、
 農業主体の社会から工業やサービスが主体の社会に変わること
を意味する。
 それ以外のなにものでもない。
 だから、経済発展に伴い農業部門が発展するなどということはありえない。
 確かに農業も少しは成長する。
 だが、その速度は非農業部門に比べたとき圧倒的に遅い。
 だから、経済発展が始まると農業部門と非農業部門の格差が急速に広がる。

 このことは日本でも生じた。
 経済発展に伴い農民が貧困化した。
 ただ、日本は都市で稼いだお金を地方交付税として農村に回し、また農業に対して多額の補助金を支払い、かつ無駄な公共事業を地方でたくさん行うことによって農村部にお金を落とし続けてきた。
 その結果、格差が許容できないほどにまで広がることはなかった。
 しかし、それほど多額のお金を回しても、農村が豊かになることはなかった。
 それが地方の疲弊の根本原因である。

■農民保護の欠如がもたらした格差社会

 中国の人口は日本の10倍、国土は25倍である。
 そして、つい30年ほど前まで農民国家であった。
 その中国が1978年に「改革開放」路線に転じると、急に成長を始めた。
 しかし、その過程で日本のように都市が稼いだお金を農民に配ることはなかった。
 だから効率良く発展できたとも言える。
 奇跡の成長は、国民の大多数を占める農民を切り捨てることによって成り立っていた。

 その結果、農業では食べていけなくなった。
 だから、戸籍制度があるにもかかわらず、農村の若者が職を求めて都市に流入している。
 現在、中国の都市人口は6億7000万人とされるが、その中の2億人以上はいまでも農民戸籍のままである。

 農民の流入により都市は急速に膨張し、それに伴い都市の地価が急騰している。
 住宅は買うにしても借りるにしても、とても高くなってしまった。
 北京や上海では東京よりも高い。
 そのために戸籍制度がなくとも、農民が一家を挙げて都市に移動することなどできない。

 発展があまりにも急であったために、都市と農村の教育水準の平準化が進まなかったことも、格差の是正を一層難しくしている。
 最近は農民の子供が大学に進むケースも増えているが、それでも進学率は都市より圧倒的に低い。
 多くの農民は高卒以下の学歴であり、都市に出てきても農民工などの単純労働に従事するしかない。

 ただ、中国政府も手をこまねいていたわけではない。
 農民工の給料引き上げなどといった対策を講じている。
 ここ何年かは、農民工の賃上げ要求を容認してきた。
 それによって農民工の賃金は大きく上昇したのだが、皮肉なことに、そのことが中国経済の減速の一因になってしまった。

 農民工の月給は数年前まで日本円にして1万円程度であったが、現在は3万円程度である。
 そして、この賃金の上昇が外資系の企業が中国から東南アジアやバングラデシュへ移動する原因になっている。

 幹部の汚職や腐敗は格差社会を作り出す要因の1つだが、それが格差の根本原因ではない。
 膨大な農民人口を抱える国が急速に経済発展し、日本のように手厚い農民保護を行ってこなかったことが、格差社会を作り出した最大の原因である。

 そのため、いくら汚職撲滅キャンペーンを張っても、それによって格差が解消されることはない。  共産党の一党独裁から民主主義に移行すれば、問題が解決されると考えている人がいるが、たとえ民主主義を採用しても、ここまで広がった格差を是正するには長い時間がかかる。

■だから中国は日本を挑発する

 これまで驚異の経済成長を続けた中国は、成長をアピールすることによって農民の不満を抑えつけてきた。
 農民でもうまく立ち回れば豊かになれるチャンスがあったからだ。
 実際に農民から成り上がった人もいる。
 ただ、その数は限られる。
 そして経済が成長しなくなれば、当然のこととして、そのようなチャンスはなくなる。

 アルゼンチン、メキシコ、ブラジルは貧農を豊かにすることに失敗して、格差社会を作り上げてしまった。
 それが政治の不安定化を招き、中進国の罠につながった。
 中国はそれらの国より膨大な農民を抱えている。
 罠から抜け出すことは、中南米諸国よりもさらに難しい。

 中国は過去30年にわたり輝かしい成長を遂げたが、次の30年は過去とは大きく異なったものになる。
 あまりにも成長を急ぎ過ぎたことが、中国の成長を阻害し始めた。
 そのために、いったん減速し始めると容易なことでは浮上しない

 中国政府はその不満や不安を日本との対決でそらそうとしている。
 そう考えれば、
 中国が尖閣列島の領有に関する問題で挑発を止めることはない
だろう。


 日本が農村にお金を落とすことができたのは、農村票という選挙制度による。
 農村をバックにした国会議員の活躍によっている。
 しかしその結果、「一票の格差」問題が発生して、今では「違憲」というところまできている。
 格差を2倍以下に抑えることが、今の国会に大きく求められいる状態になっている。
 違憲状態がいい悪いは別問題として、農村側意見の反映がなされたことによって、世界でもまれなる格差の少ない社会を生んだことは間違いないだろう。
 中国のように、農村意見の中央への反映の道が閉ざされている場合は、経済成長とは国民全体の成長ではなく、一部のものの裕福さということになってしまう。
 そして取り残された民衆は悲惨な地の底を這うことになる。
 もし、その率が過半ならその国家はいつひっくり返るかわからないという不安を抱え込むことになる。


JB Press 2013.06.11(火)  柯 隆
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37937?page=3

過剰設備と共に沈没する中国経済
「社会主義市場経済」はもはや袋小路

 中国経済の減速が鮮明になってきた。
 当初、2013年の経済成長率は12年の7.8%から8%半ばに回復すると見られていたが、国際通貨基金(IMF)や経済協力開発機構(OECD)などの国際機関は前年並みの成長になる弱気の見通しを発表した。

 中国製造業購買担当者景気指数(PMI)は49.6と50を割った。
 マクロ経済から見るだけでなく、財界でもこれからの景気動向について悲観論が漂ってきた。

■製造業は過剰設備が顕著

 なぜ景気が減速するようになったのだろうか。
 最大の理由は、
①.輸出と投資に依存する成長モデルの転換が遅れていることに加え、
②.国内消費が思ったよりも盛り上がらない
からである。

 金融当局は景気を刺激するために、金利を据え置く一方、量的緩和を実施している。
 市中に流動性が不足しているわけではないが、企業の投資マインドと家計の消費性向が改善されないのは問題である。
 結局のところ、大量の流動性が不動産市場に集中し、景気が減速しても、住宅価格は高止まりしている。

 国内市場に焦点を当てれば、自動車、家電、携帯電話といった景気を牽引してきた製造業は過剰設備が顕著となり、市場が価格競争に陥り、デフレになっている。
 自動車メーカー各社は値下げを実施しても、売れ行きは改善しない。

 現在、中国の自動車生産能力は2000万台に上るが、発展改革委員会の推計によれば、約500万台は供給過剰である。
 現存の生産能力の25%は過剰設備という計算になる。

 企業にとって過剰設備を抱えることは重荷になり、それを償却しなければ、不良資産になる。
 過剰設備で作った製品は売れなければ在庫となり、有利子負債をたくさん抱えている企業であれば、在庫が積み上がることは倒産につながる。

■成長一辺倒の経済政策の弊害

 最高指導者だった鄧小平が推し進めてきた「改革開放」政策は、開始から三十余年が経過した。
 その間、中国経済は年平均10%近い成長を成し遂げ、2010年には世界第2位の経済大国に成長した。
 しかし、投資と輸出に依存する経済成長は持続不可能である。
 特に金融危機と債務危機により欧米諸国の需要が大きく落ち込んでしまい、
 中国にとっての輸出はかつてないほど厳しい状況となっている。

国内消費が盛り上がらず、輸出も厳しくなった。
 これが、過剰設備の問題が顕在化する背景である。

 長い間、中国の政策当局者たちには「設備投資が消費に先行すべし」との考えがあった。
 また、経済成長こそ共産党の正当性の証左であると思われてきた
 さらに現在は、これまでの200年の歴史を振り返って、中華民族が復興するビッグチャンスと見られている。
 そうした種々の要因から「今の経済成長のチャンスを逃してはならない」というのが、政府レベルのコンセンサスとなっている。
 鄧小平自身も「成長こそこの上ない理屈だ」と述べたことがある。

 政府は経済成長を目的に財政資金を投入し、国有企業の設備投資を促してきた。
 地方政府においては、税制面の優遇により企業の設備投資を支えてきた。

 企業は年平均10%の経済成長が続くことを前提に投資を行ってきた。
 本来ならば、国内消費が盛り上がらなければ、企業は在庫を調整し、過剰設備を償却する。
 しかし問題は政府が毎年明るい成長見通しを発表することにある。
 実際には全国の経済成長率が10%でも、各々の地方の経済成長はそれをはるかに上回ってしまう。
 経済統計の水増しが企業の投資マインドをミスリーディングしてしまっているようだ。

■家計の消費性向はまったく向上していない

 中国の名目1人当たりGDPは6000ドル程度(2012年)に過ぎないが、ドル建て名目GDPは世界第2位である。
 中国が本当に経済大国と言えるかどうかは簡単には答えられないが、中国が大きなマーケットであることは間違いない。
 自動車もスマートフォンも白物家電も、いずれも世界最大の市場である。
 同時に、これらの工業製品の生産能力も世界最大である。

 確かに、1人当たりGDPが6000ドル程度の中国経済は、これからもっと成長すると思われる。
 企業は中国市場の潜在需要を捉えるために、投資を先行している。

 ただし問題は、経済が成長しても潜在需要が顕在化しない可能性があるという点だ。
 格差の大きい中国社会では、富裕層にとって国内市場で買うものが少ない。
 一方、中低所得層の潜在需要は大きいが、購買力は不十分である。
 そのほかに、中国市場では劣悪な品質の商品が溢れているため、消費者は買い物を控えざるを得ない。

 中国の消費者にとって最も心配なのはおそらく食品の安全性の問題であろう。
 中国大陸と香港・マカオの間のイミグレーション(出入国審査場)を見ると、びっくりするぐらい大量の大陸の住民が手ぶらで香港・マカオへ出国する。
 夕方になると、これらの住民は大量の粉ミルクや幼児用オムツを持って中国へ帰ってくる。
 中国の消費者は、もはや中国の食品の安全性を信用していない。

 長年、経済成長を維持するために、政府は企業の設備投資を支えてきた。
 それに対して、家計の消費性向はまったく向上していない。
 その結果、企業の設備は過剰となり、景気が減速すれば、企業の在庫は積み上がってしまう。
 このような状況を放置しておくと、一部の企業が倒産に追い込まれてしまう。

 政府は過剰設備を抱える企業を救済するために、無理に経済成長率を引き上げようとする。
 それを実現するために、設備投資をさらに促進する。
 このような負の連鎖を断ち切らない限り、企業の過剰設備と在庫の問題は解決されない。

■ますます強まる政府の経済への干渉

 中国政府は「社会主義市場経済」を標榜している。
 市場経済の原則は各々の市場参加者が自由に取引することであるが、
 中国の社会主義市場経済では、政府は必要以上に経済に介入する。
 かつて「計画経済」から「市場経済」への制度移行において、国有企業の行政機能と企業経営機能が分離された。
 しかし、政府による経済への介入は一度もやめたことがない。

 「改革開放」政策は開始以来4度ほど行政改革が行われたが、政府の規模は縮小せず、政府による経済への介入はますます強まる一方である。
 現在、国有企業は鉄道、運輸、石油、化学、通信、発電、鉄鋼などの基幹産業をすべて独占している。
 政府が経済への介入を強めた結果、国有企業を中心に過剰設備の問題がますます深刻化している。

 経済が健全に運営されるには、企業経営に対するコーポレートガバナンスを確立する必要がある。
 また、企業が自己責任で経営する環境を醸成するために、すべての国有企業を民営化する必要がある。

 もちろん、国有企業をすべて民営化すれば、中国政治体制は社会主義でなくなる。
 しかし、このまま有名無実の社会主義の看板を掲げることは何の意味もない。
 今から振り返れば、最高実力者だった鄧小平が「改革開放」政策を推進したのは社会主義体制の終わりの始まりだったのかもしれない。



レコードチャイナ 配信日時:2013年6月6日 20時34分
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=73063&type=0

日本の報告「2050年も中国は中進国」
中国専門家「一種の注意喚起」と反論―中国メディア

 2013年6月6日、世界の多くの国の研究機関が中国は今世紀半ばに米国に追いつき追い越すと次々に予測する中、日本経済研究センターは先日の報告で 2050年も米国が世界の牽引役を果たし続ける一方で、中国は米国を抜くのは困難で「中進国」にとどまるとのネガティブな見方を示した。
 環球時報が伝えた。

 日本メディアによると、この予測は政治の安定性、市場の開放性、女性の労働参与率、経済・社会制度などを基に導き出された。
 報告は2050年の実質国内総生産(GDP)について、
 米国が27兆3000億ドル(約2720兆7000億円)で世界首位を保ち、
 欧州が24兆1000億ドル(約2401兆7900億円)で続くと予測。
 米国は起業のしやすさなどで高い生産性を保ち、欧州は女性の活躍が経済成長に貢献する。
 中国は人口減少や外資規制などが足かせとなり9兆6000億ドル(約956兆7200億円)
 日本は4兆7000億ドル(約468兆3900億円)で中国の半分程度になる。

 日本経済研究センターは日本について3つの可能性を示した。
 第1は「停滞シナリオ」で、制度改革の遅さ、労働力の減少が経済停滞を招く。
 外国の市場開放不足、投資規制が日本経済に影響を与える。
 第2は「成長シナリオ」で女性や高齢者の労働参与率の向上、制度改革、競争強化によって中国を追い抜き、米国とEUに次ぐ世界一流の経済大国としての地位を保つ。
 第3は「破綻シナリオ」で、守旧的政策と制度改革の停滞が経済破綻を招く。

 日本経済研究センターは1958年に日本経済新聞社内に設置された「経済研究室」を前身とし、1963年に非営利の民間研究機関として正式に発足した。
 現会長は杉田亮毅・前日本経済新聞社会長、理事長は岩田一政・元日本銀行副総裁。
 日本の学界、政界、経済界と幅広い関係にある。
 2007年には2020年までに中国がGDPで米国を追い抜き、世界最大の経済大国になると予測した。
 当時同センターは中国について、2020年から労働人口が減少し始めるため、
 経済成長率も次第に減速して2040年代には1%前後
にまで落ち込むと予測した。

 日本経済研究センターのこうした報告の真の意図は、日本国内の改革推進を呼びかけることにあるだろうとアナリストは指摘する。
 中国国際戦略研究基金会の張沱生(ジャン・トゥオション)氏は4日、
 「日本は中国に追い抜かれて、非常に複雑な気持ちを抱くようになった。
 中国は自らの問題を解決できるとの楽観的見方もあれば、苦境を脱することができないとの悲観的な見方もある。
 この報告は悲観的な見方に基づくものだろう」
と指摘。
 「こうした見方は恐れるものではなく、中国にとって注意喚起とすることができる。
 筋が通っているのなら、われわれが改革を押し進めるうえでの参考意見とすることができる。
 筋が通っていないのなら、取り合わなければいい。
 中国は経済モデル転換の問題をしっかりと解決し、引き続き改革を押し進めてこそ、こうした悲観的な見方を打ち消すことができる」
と述べた。

 このほか、中国外交部(外務省)の洪磊(ホン・レイ)報道官は4日、
 「現在中国は踏み込んだ経済調整を行っている。
 中国の目標はより良く、より速い経済成長を促すことであり、現在経済運営状況は全体的に良好だ」
と表明した。

(提供/人民網日本語版・翻訳/NA・編集/内山)




減速する成長、そして増強される軍備


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